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ネット時代のロールプレイ法
2012年01月08日
金曜夜10時からの「たけしのニッポンのミカタ!」では、毎回面白いテーマの取り上げ方をすることが多いので、よく見ますが、去年10月7日の「ここまで来た!これがニッポンの新ジョーシキ!?スペシャル」も、なかなか考えさせられました。
その中で、ネット上で自分のアバター(分身)を作りそれを使って他のユーザーと疑似家族を作り、更には現実にもその人たちと会って過ごす人たちについて取材していました。
疑似家族を作るからといって必ずしも現実の家族関係が上手くいっていないとは限らず、単に別の人生パターンを体験してみたいからという場合も多いそうです。
取材した例では、「親子」4人はいずれも独身で、30代の「父」はお父さんぽい服装をし、ビデオカメラを持参。
こうした疑似関係を上手くやるには、参加にあたっての各自の目的が明確であることが必要だとのことです。
すなわち「父」は「リーダーシップを発揮したい」ということで、その「家族」メンバーの名前を指名。
また、当日は遊園地で一日過ごすというプランだったのですが、乗り物を乗る順番を(メンバーの意見を聞きつつも)最終的には父が決定する、という形。
一方「妹」は、普段甘え慣れないので「甘え上手になりたい」が目標だそうで、その日もそれを意識した言動にしたそうです。
もちろんあくまでの疑似なので、互いのプライバシーは知らず、例えば昼食代も割り勘。
それでも、「一生味わえないかもしれない役割を体験できたので良かった。(今日は上手くいったが)もし失敗してもやり直せるし」と、「父」はその日を評価し、他メンバーもそれなりに収穫があったようでした。
こうした言動について、当日ゲスト出演していた所ジョージ氏は「リスクを負いたくないのだろう。でもそれで本当に人生の醍醐味を味わえるのだろうか?」といったようなコメントをしており、確かに一理あるのですが、上記のような疑似コミュニケーションも(上手に活用すれば)それはそれで存在意義があると思うのです。
というのも、心理療法で「ロールプレイング(役割演技)法」というのがあります。
例えば親といつも同じようなパターンで言い争ってしまう場合など、まずは2つの椅子を用意し、一つには自分が座り(女性なら「娘」として)、もう一つは相手(例えば「母」)が座ると想像します。
典型的な言い争いを思い出し、自分と相手が実際に行った言葉を再現します。
実際のセラピーの場ではセラピストの前で(集団療法の場合はセラピストと他のメンバーの前で)行なうので、自分と相手の発言をそれらしく音声に出して再現するのです。
演技と最初からわかっていても、感情移入が起こるのであたかも目の前に母がいるような気持ちになり「何でわかってくれないのよ!いつもお母さんは妹の味方ばかり・・・」など、本当に怒ったり泣いたりするのは普通に見られます。
そして次は、立場を変えて、相手(上の例では母)のイスに自分が座り、同じ言い争いを最初から再開します。
すると、理不尽で一方的としか感じられなかった母の発言の背景に、母なりの理由や、配慮や、あるいは良くないとわかっていてもそう言わざるを得なかった、母自身の人生上の傷つきに基づく価値観の偏り、そういったものが実感を伴って感じられるようになり、母に対して以前よりも共感や許しの気持ちが生じやすくなります。
するとその後の現実の母親との関係も穏やかなものになり、既に他界している場合も母への気持ちのこだわりが緩和し自分が楽になる・・・そのおかげで母以外との人間関係もより安定したものになる、などの効果が出てきます。
前述のようなネットから生じた疑似関係も、上手くやればこうした癒しの効果があり得ると思います。
ただ、専門家であるセラピストの立ち会いなしで行うため、逆効果の流れに行ってしまうリスクも常にあるわけですが。
それでも、リアルな深い人間関係が薄れた現代の、特に都市生活者にとって、こうした言動が、何とか他者との絆を求め自分のアイデンティティを確立する一助にしようとする、それなりのサバイバルの工夫のようにも考えられます。
なので、なんとか成功してほしいなと思います。
書いた人 浜野ゆり : 2012年01月08日 17:20