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メンタルヘルス用語辞典>うつ病

2005年11月02日

 うつ病とは


 気分障害の代表で、病的なうつ状態をいいます。


1.うつ病の症状


 ゆううつ気分、意欲・食欲・性欲の低下、集中力低下、不眠、不安・焦燥感、悲観的、自己価値観の低下、興味や喜びの感覚の喪失、絶望感、自殺願望といったものがみられます。
 しばしば随伴する身体症状としてだるさ、疲れやすさ、頭痛・頭重感、胸が締めつけられる感じ等があり、このため身体の病気と思って内科を初診する患者も多さんも多いのです。


 「憂うつになるのって、誰にでもあることなのでは?」と思われるかもしれません。
 しかしうつ病の場合には
 (1)程度が極端である
 (2)持続が長い
 (3)原因がなくても発症/持続する
 といった特異性があります。以下にご説明しましょう。


(1)程度が極端である。


 うつ病が発症、進行すると、仕事や家事などはもちろん、従来は楽しみにしていたことや大好きなはずのことにも興味を失い、それまで簡単にできていた日常的動作、例えば洗面や着替えをするのさえひどくおっくうになり、外出はおろか、自宅の椅子にただ座っているのさえ耐えられず、寝たきりになることもあります。


(2)持続が長い。
 診断基準では、上記の症状が「2週間以上、毎日続くとき」となっているとおり、その持続性・連続性が非常に強いのです。
 それに比べて普段の健常人の「落ち込み」は数時間とか2,3日単位であり、ゆううつ気分も出たり引っ込んだりと不連続で、比較的気晴らししやすいのが特徴といえるでしょう。


(3)原因(ストレス)がなくても発症/持続する。


 健常人の落ち込みならば、その原因がなくなればうつ状態もなくなるでしょう。
 例えば受験で不合格になって落ち込んでいた人が、補欠合格して第一希望校に入れることになったら、うつ気分など吹っ飛ぶことでしょう。
 しかしうつ病が発症した場合は、たとえ最初のきっかけが受験失敗でであったとしても、その後希望校に入れるようになっても一向に気分が晴れず、それどころがそもそも大学進学自体どうでもよくなり、ひたすら「生きているのも辛い・・・」ということになるのです。


2.うつ病の発病原因


 統合失調症や他の多くの身体疾患と同様、体質性・家族性もあります。
 世間ではとかく、「ストレスが重なってうつ病になった」と考えますが、そしてストレスは確かに発病の誘因(引き金)にはなり得ますが、基本的には(統合失調症と同様)神経伝達物質(一種の脳内ホルモン)の乱れによるものなので、本人の自覚として「特に理由も思い当たらない」のに、うつ病を発症することがある、ということも知っておく必要があります。


 すなわち、特に何があったわけでもないのに
 「最近、どうも気分が冴えないなあ。集中力もないし、夜も眠れなくなって・・・何だか頭の回転がまるでダメになってきた。自分は馬鹿になってしまったのだろうか。いやきっと、怠けたいからこんな気持ちになっているのだ。これではいけない、がんばらねば」
と自分を鞭打ち、しかし思考能力は(病気の症状のため)落ちていて、思うように進まないため不安や焦りの気持ちが強まります。
 そして「こんなに簡単なこともできない自分はなんてダメなんだろう。こんな自分が生きていても皆に迷惑をかけるだけだし、何もできない状態で生きていても辛いだけ。いっそ死んでしまった方が楽だ」と、自殺願望が高まり、実行する人も出てきてしまうのです。


3.うつ病の治療法、予後


 休養と服薬が必須となります。
 急性期を脱した後は、ストレスへの対処スキルを上げ、再発を予防するため、自分の性格やものの見方で改善できる点は改善するよう、指導・教育する場合があります(認知療法、対人関係療法など)。
 寛解後は、元の社会生活に戻れる人が多いです。


 また、うつ病に関しての注意点がいくつかあります。


(1)「怠け」とは別物


 客観的にはそんなに仕事をしていないのにすぐに疲れてしまう、いつもおっくうそうにしている、作業能率が落ちているのを見て、周りの人たちは「やる気がない、さぼっている」と誤解することがありますが、意欲・集中力・思考力の低下はうつ病の症状そのものであり、本人の怠慢ではありません。


 典型的なうつ病の患者さんは生真面目な人が多いので、自分の能力低下を「努力が足りない」と思い、一層がんばろうとしますが叶わず、不安と焦りが高まっています。


(2)気分転換の誘いや叱咤激励は逆効果


 うつ病が発症すると、周りの人達が患者さんを元気付けようと遊びに連れ出したり、外食に誘っても、本人の気分は晴れず、むしろ心身ともになおさら疲れてしまいます。
 本人も「せっかく私のためを思って連れ出してくれたのに、楽しめない自分はダメだなあ」とますます落ち込んでしまいます。


 また原則として「がんばれ」と励ましたり、客観的事実(そんなに悲観することではない、こういう良い点もあるではないか等という事実関係の説明)や具体的対処法を教えて実行を促すなどをしても、本人のエネルギーが極端に落ちているため、本人は「自分としては既にがんばっているつもりなのだが・・・。とても実行できそうにない」という悲観的気持ちを高めるばかりなので、逆効果の場合が多いのです。


(3)周りの人にできること


 何よりも、「一度は医者に診てもらおう」と患者さんへ受診を促すことが最も重要です。大体の場合、本人は病気だとは思っておらず「最近仕事量が増えて、疲れているだけ。自分の努力が足りないのだからもっとがんばる」等といって抵抗することが多いですが、そこで様子を見ているとある日突然自殺を決行・・・という最悪の事態になることもあります。


 少なくとも「ここしばらく、あまり眠れていないではないか。お酒の量も増えたし・・・。最近の○さんは、従来と違うよ。せめてちゃんと眠れるようになるようにしよう」等と説得する必要があるでしょう。


(4)この時期に避けるべきこと


 人生上の重要なこと(退職、転職、引越し、結婚、離婚など)の決定は避けましょう。
 うつ病の最中は極端に自己価値観が下がり、不安が高まり悲観的になっているので、そういった中で決心したことは、病気が軽快した後のニュートラルな自分に戻った時「しまった」と思うことが多いからです。


(5)この時期にすべきこと


 なによりもまず、精神科医の診察を受けてみること。そこで「うつ病」と診断されたら、しっかり休養と服薬をすることです。
 うつ病患者の多くは生真面目なので「いや、自分が抜けると今進行中のプロジェクトに支障が出る。明日は重要な会議があるし、明後日は夜勤だし、来週は出張が・・・」等といって抵抗することが多いですが、今の本人の状態では無理であることを説明し、ある意味一度「諦めて」療養に入ることが極めて重要なのです。


 また抗うつ薬は一般に、効果発現までに2週間程度かかり、一方で副作用(眠気、だるさ、口の渇き、便秘など)はのんだその日から現れるため「薬は効かない、それどころがなおさら具合が悪くなった!」と誤解して止めてしまうことがあるため、要注意です。


4.再発予防のために


 「うつ病になりやすい病前性格」というものがあると、昔からいわれてきました。その特徴は、以下の点です。


 ・真面目、努力家、完璧主義、責任感が強い、道徳的。
 ・自分にも他人にも厳しい。


 これらは従来、社会的に善とされるものですが、これもいきすぎると、以下のデメリットとして出てくることになります。


 ・四角四面、遊び心がない、余裕がない。
 ・自分の一面的価値観からしか物事を見られず、それが通用しない場面には耐えられない。
 ・場面に応じて「適度に手を抜く」ことができないため、いつも全力投球しすぎてダウンしてしまう。
 ・遊び心からくる余裕感、応用力に欠けるため、新しい事態、不慣れな状況への変化に弱く、
その意味でのサバイバル力に欠ける。


 うつの症状が軽快した時点で、今回うつ病に至るまでに本人が感じ、考えたことを振りかえって検証し、自分の性格を把握します。
 それによって、将来同じようなストレスが降りかかってももう少し上手に対処できるよう、練習していくことが、長い目で見たときに重要となってくるのです。


 なお、躁うつ病に関してはうつ病のみの患者群とは少し違う性格特性を持ちますが、今回は割愛します。


5.参考図書(いずれもおすすめ本棚をご参照ください)


 『軽症うつ病』笠原嘉、講談社現代新書
 『専門医がやさしく教えるうつ病』水島広子、PHP…対人関係療法を含む、うつ病のわかりやすい本。
 『うつと不安の認知療法練習帳』デニス・グリーンバーガー、創元社
 『うつ・躁回復ワークブック』メアリー・コップランド、保健同人社


6.気分障害を取り上げた映画


 「心のままに」
…躁うつ病の治療を受けに入院したジョーンズ(リチャード・ギア)が、担当の女性医師と恋に陥る、という物語。


7.気分障害について考えたエッセイ


 裏表


書いた人 浜野ゆり : 2005年11月02日 17:06

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