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カウンセラーという仕事

2005年07月09日

 「心の時代」ということで、カウンセラーになりたい人が増えているそうです。最近の、働く女性のための月刊誌「日経ウーマン」でも、MBAと臨床心理士は2大人気資格となっていました。メンタルヘルスが社会で注目されるようになってきたことは大変喜ばしいですが、心理の仕事に誤解・幻想を持っている人も少なからずおられるようなので、この仕事の現在を少しご説明しましょう。


1. 臨床心理士(Clinical Psychologist)になるには?
 大学卒業後、日本臨床心理士資格認定協会が指定する大学院(2003年現在105校)に進学、修了し、資格審査に合格する必要があります。CPの資格はこの数年で急激に人気が高まったため、指定大学院の受験競争率は非常に高いです。資格取得後も5年ごとに更新審査を受けなければならず、資格を維持するためには定期的に学会や研究会に参加・発表するなど、常に研鑽を積まなければなりません。
 なおCPの資格は民間団体の認定制度であり(公的資格に準ずるものという扱いにはなってきていますが)、国家資格ではないので、資格を取ったからといって身分が保障されるものではありません。
 逆にいえばCPの資格がなくても人の相談業務は法的には可能なわけですが、きちんとした研修と技量を示す指標としてCPの資格は有効ですし、臨床心理のきちんとした勉強をせずに我流でクライアントの心理相談に乗ろうとするのはクライアント、セラピスト両者にとって危険です。また、就職の際に、CPの資格を有することを条件にされることもあります。


2.なった後の仕事の実情は?
 ここ数年の動きとして、全ての公立中学校にスクール・カウンセラーを置くという政策が始まったことから、指定を受ける大学院が多数出現したり、それを受験する生徒も急速に増えています。数年後から続々とCPの卵が卒業し、資格を得る人も増えるでしょうが、それだけの人数に見合う仕事のポストは最初の数年で埋まってしまうのではないかと推定されます。その後の人達がどうやって仕事を得るのかは、未知数です。
 またポストそのものも、非常勤や年契約だったりと、1箇所の勤務のみで生計を立てるのは困難な例も多いようです。


3.カウンセラーに求められる資質は?
 ここではCPに限定せず、人の心の相談に乗る仕事をする人一般を「カウンセラー」と呼ぶことにします。


A.真面目で勉強熱心で、社会的常識がある。
 少なくとも3年くらいは同じ会社で継続的に勤務することができる程度に、自分の生活を律することができ、同僚や上司・部下と折り合いをつけ、場の空気を読み、時には不本意な命令にも従う、という経験をしたことのない人は、クライアントの心を逆なでするような言動をしやすいです。なぜならクライアントの大部分は「常識社会の住民」だからです。
 非常識な言動でクライアントの心を逆なでする人は、特に占い師に散見されます。


B.年単位の下積み時代を耐えられる。
 人の内面を探求するのが好きでたまらないからこそ、長い下積み時代も耐えられるのです。


C.苦労の割りに実入りが少なく、社会的地位も高くなく、経済的でない、という状況に耐えられる。
 人の心を扱うのは膨大な時間とエネルギーが必要であり、特殊な薬や器具を使う他のセラピーに比べ、非常に経済効率が悪い仕事です。
 心の分野では、基本的に儲かりません。


D.クライアントの個人情報、談話の内容を守秘できる。


E.主人公はあくまでもクライアントであることを自覚し、自分がしゃべるよりもまずクライアントの話をじっと聴ける。
 クライアントが1話すと3倍くらい話したがるカウンセラーがいます。
 クライアントの顔もろくに見ず、チャート(ホロスコープ、命式、盤)を見つめて一方的にしゃべる占い師もいます。


F.人の価値観は相対的なものであることを自覚し、自分と全く異なる価値観のクライアントの話もじっと聴ける。


 まとめると、決して「天才的な勘やひらめき」や「人並み外れた博識」が必要なのではなく(あればあったで幸運、という程度)、「社会的常識と一般教養があり、時間や情報を守れる人」。これに尽きます。
 更にいえば、人の心を扱う仕事は決して清らかなものではありません。医者が血や臓物、排泄物といった「汚い」ものを扱うように、また弁護士が家族の「骨肉の争い」を手がけるように、カウンセラーは人の心の暗い面、「怒り、憎しみ、恨み、悲哀、絶望」といったものをクライアントに日常的にぶつけられます。
 「心理療法というものはダーティ・ワークである。センチメンタルな、下手なヒューマニズムから出発した人々は、いつか必ず脱落する。そこにはロマンチシズムの一片もないのである。」という言葉(※)は、実に真実であります。


※『心理療法を学ぶ』→「お勧め本棚」の項参照

書いた人 浜野ゆり : 2005年07月09日 15:52