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漂流記

2005年07月06日

この文章は2004年3月10日の(旧)業務日誌より転載したものです。


 パラオ旅行から本日、帰りました。
 旅行全体のことは後でエッセイにまとめるとして、今回は生まれて初めて潮流に流されるという体験をしたのが、最も印象に残る出来事になったので、ここではそれだけをまずは書いてみます。
 現地に着いて2日目の、朝1番のダイビングは、パラオでも屈指の絶景スポットの1つ、「ブルー・コーナー」でした。この日は(この場所にしては)今は割と潮も落ち着いているとのことで、私はボートの舳先近くから、背面エントリーしました。
 ところが水面で体勢を整え、場所を確認した時点で既にボートの胴体の後半にいるのでした。予想より景色がかなり違ったため一瞬理解するのに時間がかかり、その数秒間で目の前をボートの船尾プロペラが飛ぶように過ぎ去り、私はどんどん船の後方へと遠ざかって行きました。むろんそれまでには既に全速で水を蹴って前進しようとしていましたが全く効果なし。
 船の後尾の方で、もう1人の女性ダイバー(この年明けに免許を取ったばかり)をサブインストラクターががっしと掴み、水面下へ引き降ろしている(水面が最も潮流が速く、ともかく海底に着いて岩につかまり体を固定するため)のを見て、自分も潜ろうとしかけましたが、しかし潜行を開始しながら周りを見ると誰もおらず、これは海底での集合場所から既に相当離れてしまったな、海底で迷子になったら、海面でより発見が困難だろう、第一、再浮上にも(減圧症の)リスクが出てくるし、と判断し、すぐに水面に戻りました。
 船が――自分の乗って来たものだけでなく、他のダイビンググループのものも何隻も見えましたが、波の間に間にどんどん遠ざかっていきます。教科書で習ったように片腕を高く挙げ、水面を何度も叩いて助けを求めてみましたが、気づいた人はいないようでした。
 それでも、自分の船のメンバーは、客は8人で、うち1人Rさん(今回のツアーの代表者であり、日本で申し込んだダイブショップのインストラクター)は自身プロダイバーなのだし、現地インストラクターとサブインストラクターで計3人もいるのだから、近々誰か気づいて助けに来てくれるだろうとしばらく待ってみましたが、その気配はありません。後で聞いたのですが、この時はRさんを含めインストラクターの方々は他のダイバーたちを必死に捕まえて水面下に押し込む作業をしていたのですが、私はちょうど彼らの手と目の隙をすり抜けてしまったらしく、しかも海底でグループは潮にさえぎられて二手に分かれてしまい、互いに私を「もう一方の組に入ったのだろう」と考えて、ダイビングを続けていたのだそうです。
 私はといえば、潮流の圧倒的な力には、最初から抵抗は諦めていました。幸いマスクをしてレギュレーター(タンクの空気を吸う管)はくわえており、エントリー直後なので空気も満タンです。とりあえず、今後の対策を考えることにしました。
 メジャーポイントの密集地のため、時折エンジン音と共にボートが通過していくのが見えます。その度に腕を上下して合図してみましたが無駄でした。
 ウエットスーツを着ているし南洋の海は30度弱あり(温水プールの温度)、今のところ寒くはないけど、それでも何時間も浸かっていたらやはり体温を奪われてしまうだろう。洋上で陽に照らされているから、じき脱水にもなるだろうし。まだ朝だし、これだけ船通りの多い所なら数時間か、長くとも数日以内には発見されるだろうが、それまで私の体力がもつかが問題だ。・・・そういえば数年前、やはり日本人ダイバーが遭難・死亡したことがあったなあ。あれはどこのダイビングポイントだっけ。
 とりあえず、呼吸で消費してしまわないうちにBC(空気の出し入れをして浮力を調節する、ベスト型の装置)に空気を充分入れ、浮き袋を確保。これで意識を失っても溺れないですむ確率が少し上がるだろう。
 周囲を見回して見ると、割と近く(といっても1kmくらい?)向こうに無人島が見えます。体力温存のためには無駄な動きはしない方が良いのですが、このまま体温と水分を奪われるのを待つよりは、ここへの上陸を試みた方が良いのではないか?と考えてみました。ちょっと迷った後、「タンクの空気がある間は泳いでみよう」と結論を出しました。
 それにしても、背中に鉄のボンベを背負っての海面泳ぎは難しい!タンクの重さに引かれて、油断すると仰向けになってしまいます。いろいろ試した結果、推進力は腕で平泳ぎをし、フィン付きの脚はスタビライザーよろしく広げ気味にして、バランスと舵取りをするのが最も安定することがわかりました。
 しかし、いくら泳いでも一向に島は近づいているように見えません。ま、それはその手の小説などでよく描写されていたので、しょうがないか・・・。それでもしばらくすると海面に陸生の植物やヤシの木の葉の断片等が多数浮いているのが見られるようになりました。しめた、少しは陸に近づいているな。植物の破片が海に浮いているのを見て嬉しく思ったのはこれが初めてです。
 少し元気が出て、なお泳いでいると、背後で人の声が聞こえたような気がしました。まさかね、と思いながら振り返ると、比較的大型のボートが近づいて来ており、舳先に日本人の男性が立っているのでした。「大丈夫ですか?」
 私が、流されたことを伝えると、船はすぐに回頭して船尾にはしごを下ろし、私を引き上げてくれました。どうやら他のダイビングツアーにいく途中の船が、たまたま発見してくれたようです。男性はインストラクターでした。お茶の入ったコップを勧めながら、どこの島・ショップの者なのか、どのような経緯でこうなったのか聴取し、連絡を取ってくれました。
 30分もしないうちに、知らせを受けたカープ島の船が迎えに来て、私は無事引き渡されたのでした。
 結局、漂っていたのは1時間程度、距離にして2kmほどだそうです。いやー、終わってみればたいしたことにはならないで済んだけど、ちょっと驚きました。時々水面で、流れていく雲の模様を眺めながら、いろいろと考えることになったひとときでした。

書いた人 浜野ゆり : 2005年07月06日 16:46

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