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春喜

2005年07月01日

(1)燭台木
 あれ、あんな近くにコブシの木があったんだ……。
 ベランダからふと外を見て、思った。
 春分の日を幾つか過ぎたその休日はとても暖かく、暖房を切るだけではまだ足りず、その年に入って初めて、ベランダの窓を開放したのだった。午後一杯机に向かって本を読んだり書き物をしたりした後、陽が傾いてきたため窓を閉めに立った時だった。
 私の住むマンションの側にはお寺の森がある。ケヤキをはじめとする雑木林であるが、その中に1本、真前からやや左にコブシの木がたくさんの白い花を付けていた。窓を明けに来た時は気付かなかったが、この陽気で一気に開花したのだろうか。
 はっきりと青く染まったたそがれの空気の中で、枝枝の先に上向きの花が付いている様子は、白いキャンドルをたくさんつけた大きな燭台を思わせた。

(2)花喰鳥
 私の勤務する病院の敷地内には数多く桜の木がある。中には1人では抱えられないほどの太さを持つ幹のものもあり、付近の住民のちょっとした花見スポットになっている。桜がまだ開花し始めたばかりのこの時期、出勤途上でこの桜並木の下を通ると、よく花が1輪ずつ落ちてくることがある。花びらがひらひら……ではなく、1輪の形を保ったまま、ミニチュアの竹とんぼのようにくるくる回りながら落ちてくる。
 まだそんな散る時期ではないのにどうして、それにこの形は……と最初は思っていたが、やがてわかった。スズメやヒヨドリが花を食べているのだ。おそらく花の子房部分や、なけなしの蜜線を吸っているのだろう。そういえば「竹とんぼ桜」が落ちてくる時には必ず、頭上で小鳥達のかしましい鳴き声が聞こえる。まるではしゃいでいるようだ。
 そう思っていたら、先日夕方のニュースで、広島ではドバトが桜の花を大挙して食べている様子が報じられていた。平和公園では鳩が長らく大切にされてきたが、最近は増えすぎて糞害をはじめとする悪印象も地域住民に持たれている。また、公園内は市内有数の花見場所。この大事な花を食べられては……。
「全国の他の地域の鳩には絶対見られたくない映像ですね」とアナウンサーは、NHKらしいずれたユーモアのセンスでコメントしていたが、やはり鳩ほど大きい鳥では食花被害、一斉に枝に止まることによる木の傷みも大きそうだ。こんな「文化」が他所に波及しないことを祈るばかりである。
(2001年3月)

書いた人 浜野ゆり : 2005年07月01日 21:45

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